「ライカの旅」吉川速男著(昭和13年玄光社刊)
先日神戸に行ったとき、たまたま開催していた古本市でみつけた。
ライカを紹介する書籍で、先人の作品集といった扱いで文中に登場することが多い写真集である。
昭和13年早春にその当時の最新鋭機ライカIIIaにズマール50mmf2の標準レンズ一本だけを付けてどれだけ旅の写真が取れるかというルポ的な写真集。(発刊は昭和13年4月)

当時からライカはシステマチックなカメラだったので、ボディのほかに交換レンズを何本も携えてついつい大掛かりな旅行になることがあった。
本書はそういった風潮を戒め、「50mmレンズ一本でどれだけの旅情を記録できるか」
を徹底的に検証している。現在人にも警鐘を与える書となっている。
撮影した写真とともに、そのときの記録「撮影の記録」と焼付けのときの検証「写真的観察」つまり反省点を対比して掲載されてあるので、今でも教えられることが多い。
先人の多くが言うように現在においても「名著」であると思う。
本書194頁から 流 線 列 車 作品50
「撮影の記録」
このほど京都駅まで伸びた省線電車で大阪へ向かう。幸い、急行が出るというのでホームに待てば、乗り心地のすこぶるよい、しかも高速度の流線型電車である。中央部の二等車はまた格別ガラス窓の格子幅も広く、向日町、山崎と段々と速度を増して走る愉快さに大阪駅に車を捨てるのが惜しかった。私の電車が去った蔭には、偶然そこに上りの同じ流線型が現れたので、階段を降りようとする際に手早く1枚を撮る。手提げカバンを持つ以上、歩きながらのカメラの操作は、勢い推測のままで行なう事とした。
スケールを20メートル位までちょっと動かしたのみ、絞りや速度は固定したまま、
すなわちf6.3、1/60秒 フィルムはパンキネHである。
「写真的観察」
この作品は右側の大部分と左方の小部分と天部を少し切り取ってある。右方のプラットホームの大部分がうるさい感じを与えていたからである。気にかかる左方の駅員らしい人物の黒き影はわざわざ切り取らなかった。これは邪魔にはなるが、あればこそ構図上私どもに新しい感覚の幾分を起こさせるからである。ただ形が悪い。もう少し駅員として何か適当のポーズが欲しかったが、実際現場では電車から吐き出された人波で、これ以上贅沢な希望を並べていられなかったのである。
◆
電車は頭部の三等車を示している。外観は米国のミルウォーキーセントポールや、仏国のPLM鉄道よりよほど美しく、オランダ国有鉄道やドイツのフリーゲンデムハムブルガー等に類似して、しかも新しいだけに進歩的に見える。汽車の話は次編に譲ろう。
◆
この作品は、被写体そのものが新時代的なものであるから、今までの多少もうろう描写の作品と一変して、明るく強く目的の物体を明快に表わすようにした。「染井B」印画紙
(転載に際して旧字体・文体等は適当に改めた。)


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- Genre :
- 写真
- ライカ・マウント・レンズ
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