「陸軍の境界石」

先日、「偕行社の遺構」のページの文末に書いた「陸軍の境界石」について、あちこちから問い合わせがあったので、旧偕行社附属小学校であった母校の同窓会の会報に掲載した記事を転載します。
多少堅苦しいものなので、興味のない方は、飛ばしてください。
ヒマな日曜日をもてあましている方むけです(笑)


陸軍の境界石

大手前校地の南西角は誰言うともなしに「三角地」と呼んでいる。


(現在の三角地・國民会館前から撮影)


その三角地の上町筋側、歩道橋を降りたあたりに御影石でできた境界石(境界標)がたったひとつひっそりと佇んでいるのをご存知だろうか。

長年の風雨にさらされ、生徒たちに傘でつつかれ、靴で蹴られつづけたので、さすがに上部の四隅は角が取れているが、どっこいじっと境界線を示している。

その境界石の側面をよく見ると「陸軍」の二文字が彫られている。

確かにこの土地は大阪偕行社があった場所なので、所有者は陸軍省だっただろうということは容易に推測できるが、

  何のためにあるのか?
  いつ頃からあるのか? 
  そして誰が?

  ・・・と思ったので、調べてみた。

 土地の境界を示す標識として土地に埋め込まれているものを境界標というが、遡ると天平年間までいたる。

僧行基は、聖武天皇の勅を奉じて「境の地に炭を埋めて境界を正し・・・炭は地中に在りては万代不朽のものゆえ、境の地に炭をうけて後来の証とすることこの時をもって始めとす。」(地方凡例録上巻)との記録があるが、一般的には、明治初年の地租制度が制定された頃からこうした境界の認識が生じたと思われる。

 しかし、この陸軍の境界石は、その頃のものであろうか。
地租制度は一般国民から租税を徴収するための制度である。

陸軍が所有する土地は国有地であるので、課税対象の土地ではない。

従って同制度のもとでは境界を明確にする必要はなかったはずである。

 また明治23年に登記法が制定されるまで、土地の売買等は、地券の裏書きをもってなされていたが、これも官有地であれば不必要なものである。

しかし一方、明治22年になると、土地台帳規則(明治22年3月22日勅令第39号)により、官有地であっても道路、河川、溝渠を除き地番を付して土地台帳を作成することとなった。
土地台帳を作成するには、面積を確定する必要がある。そこで、この境界石が埋められたのであろうか。

まずは、土地台帳を調べてみた。

東区京橋前之町2番  官有地 1193坪7合 所有者 陸軍省
 
とあり、もちろん地租の欄は空欄。

でもこの台帳はいつできたものであろうか。登記年月日に大正の文字が在るので、明治時代のものではない。

古老司法書士に尋ねると、どうやらこの土地台帳は、大正時代に用紙が変わったため、移記されたものであることがわかった。明治時代の土地台帳は様式が違っていた。とのこと。しかし明治の土地台帳は見当たらなかった。

 

 土地台帳には台帳附属地図というものがあるので、その写しを取る。


確かに偕行社と明記してあるが、民有地に接する北側のラインはある程度明確であるが、南側のラインは不明確のままである。またこの地図の作成日はわからなかった。

また、古老司法書士がいうには、登記簿を起すときには、この土地台帳の写しを添付して所有権保存登記をしたものだ。というので、次に登記簿を調べてみた。
ラッキーなことに明治時代の登記簿がまだ保管されていた。

写真?-1

東区京橋前之町2番の土地の甲区壱番の欄を見ると


写真?-1

保存  受付 明治41年4月8日第2120号 所有者 陸軍省 とある。

因みに甲区弐番の欄を見ると

移転 受付 昭和24年5月31日第7123号 原因 同年4月30日売買
取得者 大阪市東区京橋前之町2番地 財団法人追手門学院

(注) 財団法人追手門学院は昭和26年3月12日に組織を変更し学校法人追手門学院になったことが登記簿の甲区2番付記1号からみてとれる。

今となっては推測の域を出ないが、これらの資料から考えると、この境界石は少なくとも明治41年には存在していた可能性が高い。

それと、境界石がひとつだけということは考えられない。敷設当時はあちこちに存在していたと思われるが、残念なことに今では唯一つ残るのみ。

 

そもそもこの境界石の施設作業をした者は誰かと考えると、陸軍省の内部組織である陸地測量部であると考えられる。
この陸軍陸地測量部というところは、日本における50,000分の1地形図を、明治25年から大正13年のあいだに作成するなど日本における測量技術の最先端技能集団であった。またその技術は第二次世界大戦後,国土地理院に受け継がれ,海岸線や土地利用,さらに行政界などの変化に応じて測量や修正がつづけられている。

このような輝かしい経歴を持つ陸軍陸地測量部が敷設した陸軍の境界石が本学院に現存するということが驚きである。
それも今となってはまず二つと存在しないものであり、歴史の生き証人として貴重なものには違いない。
また教育的見地から、そして学校の歴史のみならず、日本の地図作成および土地測量技術を知る教材としても稀有な財産と考える。
現在中高の校舎建替工事が進んでいるが、偕行社の遺構である煉瓦と大谷石でできた外構とともにこの境界石も是非保存してもらいたい。

関連記事
スポンサーサイト

Comment

2010.01.08 Fri 14:47  |  

泡盛は、久米の100年ものが美味しかったちぃです、はじめまして。

追手門が母校の主人と、この煉瓦と境界杭を探しに今年2010年行ってきます。
現存してるかなぁ

  • #pZffAq0k
  • ちぃ
  • URL
  • Edit

2010.01.08 Fri 17:44  |  *ちぃさん はじめまして

昔の記事にもかかわらずコメントありがとうございます。
陸軍の境界石は今でも残ってますよ。
中高の正門も貴重なので是非見てきてくださいね。
http://fuzzyphoto.blog120.fc2.com/blog-entry-872.html

ところで100年物のクースーなんてイメージしただけでヨダレが出てきます。
うらまやしい~

(編集・削除用)
管理者にだけ表示を許可

汽笛一聲・阿房列車

ファジー

Author:ファジー



にほんブログ村 鉄道ブログ 鉄道写真へ

何カノキツカケガアレバ汽車ノ事ヲ一所懸命ニ記述シテヰル。子供ノ時ノ汽車に對スル憧憬ガ大人ニナツテモ年を取ツテモ抜ナイノデアラウ。


DSC01281切符


 阿房(あほう)と云ふのは、人の思わくに調子を合はせてさう云ふだけの話で、自分で勿論阿房だなどと考へてはゐない。
 
 用事が なければどこへも行つてはいけないと云ふわけはない。
 なんにも用事がないけれど、汽車に乘つて大阪へ行つて來やうと思ふ。   
    ・・・内田百閒「特別阿房列車」


        

What's New!

探し物はコチラ ノラや~

ファジー全輯

記事アクセス番付

サラサーテ“謎の呟き”

忘却來時道

木蓮や塀の外吹く俄風

本ブログアクセス總數

只今ノ閲覧者數

現在の閲覧者数:

♪鐵道ほとがら帖/昭和編

ファジー日記帖

11 | 2016/12 | 01
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

直近ノ貴重ナル御意見

openclose

日没閉門 南山壽断章

蜀山人:世の中に人の来るこそうるさけ とはいふもののお前ではなし        

百鬼園:世の中に人の来るこそうれしけれ とはいふもののお前ではなし       にほんブログ村 鉄道ブログ 鉄道写真へ

ファジー我儘帖


戦前の写真機と・・・ IMG_0399.jpg

DSC06017.jpg

汽車ポッポや・・・ 1973-11-3叡電149

昔の電車と・・・ 鴨東線061

由緒ある建物と・・・ DSC08821-1.jpg

古本や・・・
DSC03810.jpg

いにしえの文書・・・ DSC06596.jpg

79767587_49-1.jpg
などなど つまり往時を偲ぶ古色蒼然としたものが大好き。

・・・それとお酒
VIMG0013.jpg
洋酒と泡盛は、古酒ほどよろし・・・。   

 

麗らかや


-天気予報コム- -FC2-

ご注意

記事のタイトルに「 」がついているものは、so-netブログから移設した2006.11.1~2008.3.31の過去記事です。

また、記事のタイトルに☆がついているものは、mixiから移設した2005.12.15~2006.12.16の過去記事です。

記事・画像の無断転載、無断ダウンロードはご遠慮ください。

月別回想録

お便り投函箱

名前:
メール:
件名:
本文:

文楽みくじ

タグクラウドとサーチ

> tags
C56 SL 北びわこ号 8620 ハチロク 人吉 赤うし弁当 温泉 阿蘇神社 熊本 肥薩線 矢岳 しんぺい号 大畑 真幸 吉松 はやとの風 C55 鹿児島 霧島温泉 鹿児島市電 九州新幹線 八軒家 天満橋 ダックツアー 水陸両用車 土讃線 高徳線 高松琴平電気鉄道 徳島線 コトデン 黒野駅 揖斐線 岐阜市内線 名鉄 モ510 米原 C56 昭和 臨港貨物線 Leica スーパーイコンタ 阪堺線 天下茶屋 阪急電鉄 阪神電鉄 阪神淡路大震災 はやぶさ ハスカップ 新幹線 青函連絡船 青森 JRバス 酸ヶ湯温泉 混浴 すすきの 寝台車 はまなす 鉄道 アイアンホース しずか 大勝 小樽 札幌 湯原温泉 砂湯 八景 久世 遷喬小学校 真庭市 えきそば キハ127 姫新線 梅小路 義経号 蒸気機関車 サンライズ出雲 スーパーはくと 温泉津温泉 薬師湯 温泉津 おとなびパス 山口線 スーパーおき 博多 明治 官営鉄道 鉄道遺産 京津線 蹴上浄水場 ツツジ 京阪電車 地下鉄サリン事件 特別警戒実施中 平成7年 大阪地下鉄 阪急 造幣局 大阪環状線 泉布観 四国鉄道文化館 しまなみ街道 今治 カーバイド アセチレン 交通科学博物館 EF52 デイ100 P-6 大震災 国鉄 向日町 神足 三条通 京都 京阪 蹴上 竹鶴 竹原 マッサン 尾道 白市 湯坂温泉 かんぽの宿 酒蔵 西条 くろんぼ 広島 18切符 なみはや大橋 臨港線 浪速駅 阪神電気鉄道 阪神電車 ラピート 南海 なんば駅 貴志川線 タマ駅長 叡山電鉄 デナ21 鞍馬 阪堺電車 木津川駅 南海高野線 万年筆 高松 連絡船 デルタ 宇野 予讃線 豊浜 天保山 桜島 USJ 櫻島線 北港運河 曝涼展 モハ52 流電 あべの 明治屋 蒸気動車 リニア・鉄道館 汽車会社 湯田中 長野電鉄 角屋ホテル 屋代線 大阪国際空港 小郡 宇部 新山口 雀田 モ301 モ253 大和川橋梁 大阪 サントリーミュージアム テッサー コンタックス ヤシカ 汐見橋線 山代温泉 レディー・カガ グランフロント大阪 ホワイトラベル バー 懐石 本線 ズームカー 高野線 汐見橋 南海電鉄 太平洋戦争の痕跡 機銃掃射 福島 地下工事 保存 大阪市電 吊り手 投書箱 緑木車庫 市電保存館 2階建て電車 花園橋 キハ58 ロングシート 播但線 日野駅 レールバス だるま 近江鉄道 ボンネットバス キャブオーバーバス 軽便鉄道 岡山 キハ7 西大寺鉄道 福井駅 和倉温泉駅 金沢駅 北陸本線 博物館 関西文化の日 丸窓電車 上田交通 動画 梅小路蒸気機関車館 C62 長崎駅 特急 シュプール号 スキー列車 原鉄道模型博物館 沼津魚がし鮨 今井町 薬師寺 近鉄 奈良 橿原 藤原京 海上自衛隊 北近畿タンゴ鉄道 肉ジャガ アテンダント 舞鶴 丹後由良 ハクレイ酒造 KTR 由良のと 山椒大夫 玉川 久美浜 碧翠御苑 京丹後 昭和レトロ 観音寺 銭形 梅干 善通寺 偕行社 関東鉄道 キハ07 気動車 大阪市 梅田駅 地下鉄 四條畷 片町線 関西鉄道 城東線 忍ヶ丘 桃山 桃谷 宮崎空港 南宮崎 特急冨士 宮崎駅 宮崎 大淀川 ジョイフルトレイン大分 日豊本線 鉄橋 試作B編成 試作車 B編成 A編成 武器学校 戦車 自衛隊 土浦 旧型客車 長浜 はまかぜ 福知山線 客車 湯村温泉 北近畿 フォトニュース 20系 寝台列車 クロ151 こだま 壁面工事 大阪市営地下鉄 けごん 鬼怒川 きぬ 東武鉄道 オリエント・エクスプレス 大阪駅 オリエント急行 '88 プルマン マイテ49 エーデル丹後 謹告 大阪港 JR 城崎 富山 大井川鉄道 世界帆船まつり ライカ 亀岡 カメラ 丹波 エレベータ 有馬温泉 神戸電鉄 X線駅名板 明知鉄道 岐阜 開運なんでも鑑定団 追手門学院 炎暑 筑豊 平成筑豊鉄道 直方市石炭記念館 直方 筑豊電鉄 JR九州 春日大社 汐留 東京スカイツリー 大阪ドーム ビール 阪和線 紀勢本線 路面電車まつり 阪堺電鉄 写真展 北新地 四国中央市 阪神 野上電鉄 東大阪 熊野街道 四国 東洋現像所 地震 北海道 写真集 白髪橋 明治天皇 ローライ 大阪府 かにカニはまかぜ 城崎温泉 JR カニ クラシックカメラ 関西汽船 加古川線 大阪帝国ホテル 信越本線 東京 和歌山 みや乃 さよならSL南紀号 平成22年 上毛電鉄 D51伊賀号 関西本線 正月 大正 茨城 伊勢海老・魚料理 住吉大社 千葉 総武流山電鉄 大阪市交通局 阿倍野 田老町 岩手 仙台 障子 小学校 常磐線 境港 レトロ 鳥取 智頭急行 有馬 ライツ リコー アンプ 土用丑の日 切符 0系新幹線 第二次世界大戦 串かつ 大阪市営高速鉄道 四天王寺 重要文化財 神戸 大阪中央郵便局 ベスト判 YouTube 室内ゲーム SONY 九州 福井 仮株券 大阪臨港線 スイッチャー 福山 姫路駅 北九州 産業遺産 ニコン 水郡線 SL白鷺号 香住 伊予鉄 松山 讃岐 阪神甲子園線 最新大阪市街全図 厚木 米寿 西梅田 ローライフレックス 美協子ども展 仙台空港鉄道 仙台市電保存館 東京中央郵便局 雑誌 惜別 原爆 おおさか市営交通フェスティバル 木通 NHK連続テレビ小説 ホテル大阪ベイタワー 東武東上線 天皇 鉄道省 写真機 ドレッシング 鶴橋 上湯温泉 白浜 十津川温泉 奈良交通 浜寺公園 南海本線 登檣礼 パーティ 稲田朋美 ブログ 掛布 二眼レフ 大阪市立科学館 しおじ 猪苗代 奈良機関区 鉄道博物館 プラレール デジカメ 報道写真 淡路島 小西六 国産フイルム 大阪府庁 長崎 鉄道時計 QE2 黄綬褒章 倉敷 九州鉄道記念館 門司 京阪特急 播州赤穂 青蔵鉄道 0系新幹線 満鉄 えちぜん鉄道 大神神社 引越し 山陰 ポスター 青梅線 青梅鉄道公園 広島市電 ブラック イカリソース 学校 ディズニーリゾート 鉄道模型 恋道路 陶芸 ゲルツ フスマ 伊勢志摩 珍味 送別会 世界地図 こども 山陰鉄道 居酒屋 JR西日本 生駒 立ち飲み 華麗なる一族 誘導タイル キリン 一眼レフ てっちり 京橋 くじら肉 あじ平 祝勝会 忘年会 心斎橋大丸 子供 幼稚園 ブルートレイン 電車 大阪市営交通局 自転車 ワイン ホクトレンダー 古文書 ネコ B級グルメ 西宮 時計 suica 茗渓会 泉州 寝台急行 荒神橋 高射砲 液晶テレビ セントレア 半田 高山 信州 官報 AERO usj トマソン よいこのびいる 環状線 宝くじ そばや 香川

旅順入場式

blogram投票ボタン

長崎の鴉・・長崎阿房列車

段段車窓が薄暗くなり、汽車が次第に濃ひ夕闇へ走り込んで行く時に聞く汽笛の響きは、鼻へ抜けたかさ掻きのやうな電氣機關車の聲よりも、蒸氣機關車の複音汽笛が旅情に相應しい。


          


  いつの間にか窓が眞暗になり、窓硝子に響く汽笛の音が、蒸氣機關車C62の複音に變つてゐる。


          
にほんブログ村 鉄道ブログ 鉄道写真へ

ひめくり帖

RSSフィード

Copyright © ファジー