Rietzschel Clack(リーチェル・クラック)といふ冩眞機
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かなりの時代物だが、外革をふくめ状態は非常に良好。
またジャバラカメラなので折りたたむとこんな感じでペッタンコ。
とてもコンパクト。

外革に丸くRietzschel’s CLACK Munchenとある。
このリーチェル・クラックというカメラ、今から4年前、平成16年12月2日に中古カメラ店でその美貌に一目惚れして買ったものだが・・・ライカやコンタックスと比べ、その氏素性が全くといっていいほど判らない。
そういうときには、文献漁りをするのもこの道の楽しみだが・・・

これらは、私にとってはバイブルみたいなマニアチックな書物であるが、これだけあっても記事になっているものはたった一つしかなかった。
それを見つけたときは嬉しかったねえ。


そのクラカメ界の大御所の高島鎮雄さんによると・・・
リーチェル社は、1898年ハインリッヒ・リーチェルと二人の助手がミュンヘンに設立した光学研究所である。1900年にクラック1900というカメラで成功を収めたが、1924年にはAgfa(アグファ)のカメラ製造部門に吸収された。
・・・というとドイツのミュンヘンにわずか26年の間だけ存在していたカメラ製造会社ということになる。
因みに、アグファという商標(Agfa)は1897年に確立されたもので、それは“Actien-Gesellschaft für Anilin Fabrikationen(アニリン製造株式会社)”を意味する。
アグファ社は、1889年にすでに写真用の現像液を生産していた。
レンズの下部を見れば、このカメラはリーチェル社のHeli-Clackという名称のもののようだが、製造年は1920?25年であろうと推察できる。大正末期である。

手許のカメラの外蓋を広げるとこんな感じ・・・レールに沿って引き出してやらなければならない。

ゆっくりと引き出してやる。
この手のカメラをフォールディング・ハンドカメラというが、1900年くらいから乾板フイルムの向上により登場し、1930年くらいまで存在したカメラである。

数多くのこの手のカメラを見てきているが、これは飛び切り美しい。
ほとんどのカメラがほぼ真っ黒な感じなのに、これは黒塗のボディーがベースだがニッケル鍍金の部位が数多く存在し、それが極めて華麗で高級感を提供している。

また、この21世紀となってもその輝きを失っていないところが魅力的なのだ。

レンズの周囲には、
LINEAR-ANASTIGMAT A1a F:4.8 F=135mm D.R.P.A HCH RIETZSCHEL No.62771
と刻まれてある。

LINEAR-ANASTIGMAT(リニア・アナスチグマット)のレンズ構成図。
このように4枚のガラスを張り合わせたものを絞りを中心に前と後ろに配している。
こういうのを2群8枚のレンズ構成という。
3枚の張り合わせはこの当時でもよく見るが、4枚張り合わせは極めて珍しい。技術的にも難しいものだっただろう。
また、この前後対象型をDoppel・Anastigmat(ドッペル・アナスチグマット)型というが、面白いことに後ろのレンズをはずすと焦点距離が2倍になり望遠レンズとなるのだ。
したがってカメラ本体にも標準用の距離表示と望遠のときの距離表示とが備えてある。

標準時の状態と距離指針

3mを指している。

後ろ玉をはずしたときの状態と距離指針

指針の矢印も典雅だね。

ファインダーは、シャッター機関の上にウエストレベル・ファインダーが、そしてボディ上部にアイレベル・ファインダーが取り付けられているが、前者は少し全体の質感と異なるから後つけのような気がする。
シャッターダイヤル付近

最高速は1/200までしかない。当時としてはこんなものだろう。今時のような1/8000なんて予想すらできなかっただろう。
しかし、低速のほうは1秒まである。しっかり三脚に備え付けてケーブルレリーズで静かにシャッターを切る必要があるが・・・
この低速スピードはどのように出しているのか・・・というと、シャッターダイヤルの上部にある横長の筒のようなものにご注目。
この中にピストンが入っていて空気の流れを調整することによりシャッタースピードを出している。
エアーシャッターと称するが、いまでもほぼ正確なスピードを提供してくれているのがなんともケナゲで嬉しい。
1930年に近づくと時計のはずみ車を利用したいわゆるスロー・ガバナーが登場するのでこのエアー・シャッターは姿を消してしまう。
音もなく静かにスローシャッターが落ちる感触に、1世紀前の職人の手練を見る思いがする。
さてさて、こんなカメラであるが大きな問題点があった。
使用するフイルムサイズである。
当時は一枚一枚シート型のフイルムを後ろにセットして撮影していたが、現在ではシートフイルムは
4×5や8×10などの限られたサイズしか存在しない。
それでは撮影できないカメラになってしまう(所持するだけでも楽しいカメラではある)・・・のだが、サイズの合うロールフィルムホルダーを見つけてきて撮影を可能とした。

(このホルダーを見つけるのに約1年ほどかかった。)

臨戦態勢OK・・・21世紀の高性能フイルムをまとう100年前のカメラ
(アイレベル・ファインダーは、120判フイルムのサイズに合うように、半透明のプラ板でマスクを自作して両面テープで貼り付けている。)
撮影例は、次のとおり
フイルムサイズは55mm×85mm ほぼ6cm×9cmに近いサイズとなっている。

今までカラーフイルムを通したことがなかったであろうカメラと最新高性能カラーフイルムの相性は如何だろうか?
この撮影シーンは、ビビッドな色彩に溢れているが、その再現は落ち着いた色目になっている。
(CONTAX?RXあたりでPlanar85mmf1.4を使うと、溢れるごとき色彩とコントラストで油絵のようになる。)
また現代のカメラ(レンズ)と違い、ホクトレンダーのヘリア同様「ぬるり」とした描写となっている。
f22 1/200 Fuji PN400N

昭和25年4月15日天王寺動物園にやってきた推定59歳(人間でいうと御歳90才)のアジアゾウ春子
f22 1/200 Fuji PN400N

ゾウの写真の左上に写っている通天閣を拡大したもの。
展望所の窓枠まで明瞭に写っている。80年前のカメラでこれだけ写れば上等だ。
(画像のユレは、スキャンの性能によるもので、ネガの写りはもっと良好である。)

木片で遊ぶシロクマくん。
f8 1/200 Fuji PN400N
輝度差の大きなこういった被写体では、明部と暗部がどのように撮れるだろうか?と気にしていたが、白から黒へ諧調豊かに捕らえている。
こういった極めてトラディショナルなカメラでも、現代でも十分に使えるというのが何とも嬉しい。
その今でも使えるという理由は・・・
(1)電池を使っていない機械式であること。
(2)構造が簡単で故障が少ないこと。
(3)少し工夫をすれば、現在のフイルムが使えるということ。
しかし、いつのまにか(3)の理由が怪しくなってきた・・・。
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Comment
2008.10.24 Fri 06:56 | 参りました
貴重なカメラを拝見
参りました。
アナログな私には
フィルムは無くならないと思いますが
ナガオカのレコード針の様な存在に
- #-
- junsbar
- URL
2008.10.24 Fri 10:35 | 凄みがありますね
最初の画像を見た時はカメラが入ったケースかと思ってしまいました。
こういうものを見ると大阪人は「なんぼぐらいしたんですか?」と訊いてしまいます。
- #-
- サットン
- URL
2008.10.24 Fri 16:24 |
*junsbarさん。こんにちは。
古いものは、新しいものにはない手作りの温もりのようなものを感じます。そこが魅力なんでしょうか。
私もレコードを聴くときにはオルトフォンのレコード針を使っていましたが、今でもこのあたりは現役なんでしょうか?
2008.10.24 Fri 17:05 |
プレーヤーと針さえあれば、アナログ盤はかかりますが、フィルムの生産を止められたら世界中の銀塩カメラはお手上げになってしまいます。
細々とは生産されるでしょうが、デジタルカメラは数年しか持たない使い捨て、そのくせ何十万もかかるというとんでもない食わせ物なのかもしれません。
「くすり」ののぼりを見たときに、悪く言えばシャープさに欠ける、良く言えば、まろやかな写りですね。
戦前の通天閣はかくあらんという雰囲気でしょうか。
- #JyN/eAqk
- なにわ
- URL
- Edit
2008.10.24 Fri 20:52 | これはまた…
何と美しいカメラなんでしょう…
レールのメッキ部なんて同時代でも国産の Lily とは比べ物にならん仕上げの良さ(汗
おまけに実写までされているとは恐れ入りましたし、
フィルムホルダもウチの3000円ボロホルダとはホルダが違います。
(窓が3つ装備されている辺りも素敵です)
と言う事で、なんだかテンションが上がりましたので
今度の休みは Lily を持って出掛けてきます(^^
2008.10.24 Fri 21:36 |
*サットンさん。こんばんは。
夕方ご返事を差し上げようと思っていたのですが、仕事が入りまして遅くなりました。ごめんなさい。
この写真機の「なんぼぐらいしたんですか?」とのことですが、一流ホテルに二人でディナーに行くくらいの料金でした。
1925年当時は目をむくほどの値段だったとは思いますが・・・
2008.10.24 Fri 21:50 |
*なにわさん。こんばんは。
レコードはともかくCDも含めて回転系の音楽媒体の凋落には目を覆うものがありますね。
フイルム関係もまたご同輩というところでしょうか。
我々を培ってきた文化が根こそぎなくなってしまうようで恐ろしいです。
このLINEAR-ANASTIGMATというレンズ硝材がちがうのかカラーフイルムでは非常に渋い発色をします。シャープネスは、かなり大きくしていることと、フラットベットスキャンを使っていますので少々ゆるいですが、この当時では悪くないと思います。
戦前の通天閣といえば、ルナパークですね。いい名前です。
生駒山上で現役の飛行塔として活躍している市岡パラダイスの遺構もお忘れなく・・・。
2008.10.24 Fri 22:00 |
*Agasさん。こんばんは。
お子さんのお世話にお忙しいときにも関わらずコメントを頂きありがとうございます。
これが私のお気に入りのジャバラカメラです。
ニッケル鍍金が美しいでしょう。4枚の張り合わせのレンズというところも魅力的です。
また、これが大正時代に存在していたということが驚きです。やはりドイツ光学のレベルは凄いですね。
フイルムホルダーの「窓が3つ装備されている辺りも素敵です」とのこと、さすがよくご覧になってますね。それぞれのマスクはありますが、フレーミングが大変なので、 6×9しか使ってません。