大正十年刊・鉄道旅行案内

手許に一冊の古い鉄道関連書籍がある。

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(110mm×190mm×30mm)

鉄道省が鉄道開設50年を記念して大正10年に発行した「鐵道旅行案内」である。

販売元は東京・博文館。

内容は、今で言うところの旅行ガイドブックである。


鉄道省の路線毎に名所・旧跡などが記されているものだ。


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外箱には本体の表紙と同じ絵柄が描かれている。
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見返しは、昔の旅の様子。

早駕籠や飛脚が描かれている。当時の特急列車を表しているのだろうか?



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そして内題の書かれた絵扉は・・・牛車・・・なぜ?・・・昔の一等車を示しているのだろうか?

・・・ん?ん よく分からん。


特筆すべきは、吉田初三郎とその弟子たちが、これらの絵を描いたということ。

この吉田初三郎という人は、当時鳥瞰図の神様といわれた人物で、時の摂政宮裕仁皇太子が吉田初三郎の筆による大正2年の「京阪電車御案内」の鳥瞰図を見て、「とても判りやすい」と絶賛したという逸話が残っている。

またその遊び心が極めて楽しい。彼が残した作品の中でも「叡山山頂一目八方鳥瞰図」は瞠目の逸品だ

その技量は、本書においても遺憾なく発揮されている。

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赤い実線は、鉄道省の路線。

右下から東京・品川・大井町・大森・蒲田・川崎と続く・・・

上のほうには、欄外の新宿から中野・八王子・東神奈川と中央線と横浜線が簡単に描かれている。



(上の頁の左につづく・・・)
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同じく右下から鶴見・東神奈川・神奈川・横浜・桜木町

横浜からは左上のほうに東海道線が伸びている・・・大船・国府津と。


2ページの見開きで東京から横浜までが描かれているが、平坦なところを走っている鉄道が良く判る。



こんな感じで全体が構成されているのだが、

路線図だけではなく、各地の風景も所々にある。

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小田原を越えるといきなりこの富士山がドーンと現れる。

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さすが千有余年の都「京都」はガイドブックの紙面も、この雪の金閣を含め10ページを割いている。

いういった2ページ見開きを豪快に使っている。見応えのある多色刷りである。


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またこのように、絵の下に鉄道路線を配し、各地の故事来歴・名物などを載せて内容が単調にならないように配慮されている。

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大津・山科・京都の部分

橋のたもとで土下座しているのは、ひっとして高山彦九郎先生ではないだろうか?
いまでも三条大橋のたもとで宮城を遥拝されているが・・・。



また路線図は各地の特徴をよく表していて、立体的なイメージが捉えることができる。

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たとえば、糸魚川の親不知では海岸にそそり立つ天険断崖をくぐって進む北陸本線が印象的に描かれている。

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青海・親不知付近・・・初めて見て、その迫力に思わず息を呑んだ!


小生をしてこの冊子を購入することを決定せしめたページである。




また肥薩線の大畑・矢嶽・真幸ではこんな具合。

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当時の山深きループ線はどんな様子だったのだろう。


また日中の風景ばかりではない。

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札幌は月明かりが美しい夜景だし・・・

(手前は小樽・札幌と石狩湾から見ているが、彼方には太平洋に面する苫小牧まで描かれているところが面白い。)


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釧路・厚岸・根室の根室本線は、静寂の雪景色だ。

この絵には、めずらしく落款がある。

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京都・山科にある吉田初三郎の墓には、同じ署名・落款が刻されている。






本文に戻ると、最初に旅行案内がある。

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二等は三等の2倍、一等は三等の3倍の運賃が必要と明記してある。
いかに一等が高かったかが判るというものだ。

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その憧れの一等車であるが、特別車・展望車もこのように貸切ることができるようだ。

ただし料金は、一等40人分というから・・・三等では120人分に該当!!

おいそれと出来るものではない。



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奈良ホテルに山陽ホテル・・・各地の説明文の末尾に旅館案内がされているが、このような鉄道省直営の一流ホテルの紹介もある。

・・・いずれも格外の低廉らしい・・・


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旅行案内は、この東京近郊から始まり、九州・北海道にまで至っているが、外地は含まれていない。

以前にも鳥取行の記事に少し引用したことがあった。


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所々では、このように折込地図があり、凝った造りとなっている。




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初版から僅か1ケ月余りの期間に第7刷にも及んでいることから、当時のベストセラー振りがしのばれる。



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最後の見返しも江戸時代の大井川を渡るの図・・・昔の苦難に満ちた旅を偲ぶことで今の鉄道の有難さを知れ!というところか。


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裏表紙




最後に本書に収められた究極の鳥瞰図をご覧頂こう・・・



手前の北海道を北西方向から見た大日本地図・・・気宇広大な心持ちにさせてくれる。

鳥瞰日本全図-1

北は南樺太にカムチャッカ半島まで、南は朝鮮・台湾まで、無理から一枚の鳥瞰図を仕上げている。


浦塩斯徳(ウラジオストック)の上空から鳥瞰すればこんなふうに見えるのだらうか・・・。










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Comment

2009.05.22 Fri 12:28  |  

北陸本線の図は、海岸線にせり出す山々が見事に描かれていますね。当時の人も鳥瞰図を見て、きっと旅に出たくなっただろうなぁ。
あれこれ理由があって出かけられなくても、これを見て旅をした気分に浸っていた人も多かったかも知れません。。

そういえば、少し前に完結した"鉄道旅行地図帳"も、予想を大幅に超える販売数だったようですね。

  • #-
  • うたに
  • URL

2009.05.22 Fri 21:17  |  

これは素晴らしいものを見せていただきました。下世話な話ですが、「なんでも鑑定団」にでも出てきそうな逸品ですね。
見事な鳥瞰図です。

2009.05.22 Fri 23:59  |  *うたにさん。こんばんは。

今から90年ほど前のものですが、現代人が見ても楽しく感動する旅行ガイドです。鉄道省も遊び心をもって粋な計らいをしたのではないでしょうか。
ところで、"鉄道旅行地図帳"は全冊買い求めてブログ記事の一助となっていますが、番外の朝鮮・台湾・満州・樺太の特別編は一体何時発売されるのでしょうか。

2009.05.23 Sat 00:03  |  *のりさん。こんばんは

愉しんでいただけましたか?
これは偶々ヤフオクでゲットしたものですが、それほど高価なものではありませんでした。
思えば、1ケ月余りの期間に第7刷していますので、かなりの部数が世に出ていると思われます。残念ながら希少本というわけではなさそうです。

2009.05.23 Sat 14:17  |  

これは楽しいですね!

親不知付近、今だったら北陸道や国道8号が邪魔して絵になならないでしょうね。

奈良ホテルのフロントには昔の駅のような飾り気のない丸い時計が掛っていて生い立ちを偲ばせます。

  • #-
  • サットン
  • URL

2009.05.24 Sun 08:43  |  *サットンさん。こんにちは。

昔は、庶民にとって鉄道が唯一の移動手段でしたから鉄道省も気合が入っていたようです。行った事のない場所が鳥瞰図で表されているのでより具体的なイメージが沸いて楽しいものだったのでしょうね。
奈良ホテルのフロントの丸い掛時計はいまだ認知していませんが、機会があれば訪れてみたいです。
あそこは、中心部から少し離れているので、なかなか訪問することができないままになっています。

2009.05.25 Mon 13:02  |  鉄道旅行案内と初三郎

こんにちは。鉄道旅行案内と初三郎の鳥瞰図について、楽しく拝見しました。吉田初三郎について、ライフワークで作品や制作秘話、ゆかりの地を尋ねて逸話を取材している者です。以下、雑学的に記載しますのでご参考ください。
鉄道旅行案内(大正10年版)は一年余りで40版以上の増刷となった当時の大ベストセラーです。数十万部発行されていますので、希少性は初版のみです。
大正13年には全面改訂版が出版され、さらにすばらしい初三郎作の挿絵・鳥瞰図が掲載されていて、こちらの方が見応え・印刷状態・完成度でいうと良いです。
ちなみに鉄道省関連の旅館・ホテルも初三郎に鳥瞰図を描かせていて、奈良ホテルにも立派な肉筆画が展示されています。今はない下関の山陽ホテルなどもパンフ作品が遺ります。昭和天皇ゆかりの全国の老舗ホテルにも初三郎の肉筆画(大きなものは幅4m以上のものも)が遺るところが多いですよ。
私鉄も初三郎作の沿線案内がたくさんあり、周年記念で復刻等もよくされています。それらを尋ね歩くのも楽しいですよ。
PS.新潮社「みんなの鉄道地図帳」九州編には初三郎の作品が数点掲載されていますが、私が提供したものです。学研の同種の鉄道地図帳にも同じく初三郎図が多数掲載され、こちらも提供しました。初三郎図は、富士フィルムのスクエア「鉄道展」でもパネル展示されています。

2009.05.25 Mon 17:25  |  *mapfanさん。こんにちは

お立ち寄りいただいた上に詳細なデータをコメントとしてご提供いただき、まことにありがとうございます。
私もこの鉄道旅行案内のほかにも同氏による作品の存在は了知していますが、なかなか実物を目にする機会がないのが残念なところです。
大阪の鉄道科学博物館で特集組んで展示していただけないかなあ・・・。

2009.08.01 Sat 02:35  |  鉄道旅行案内

はじめまして。実家の書庫から出てきた「鉄道旅行案内」の出自を調べたくてうろうろしていたらたどり着きました。

私の手元にあるものは箱のない初版です。箱はおそらくどこかへ紛失したのでしょう。

この「鉄道案内」ですが、実はここで紹介されているものとは別に、大正7年鉄道院発行の非買品のものが一緒に発見されました。こちらは縦綴じで、鳥瞰図はなく、カラーの折込地図がメインです。

いくら調べてもこの大正7年の非買品はネットではヒットしません。なにかご存じのことがありましたら、是非教えて下さい。

  • #f3.AbFOU
  • 日々平穏
  • URL
  • Edit

2009.08.01 Sat 09:49  |  *日々平穏さん おはようございます

鉄道旅行案内の初版本は、やはり人気の一品ですね。
小生のものは、7版なので、ズレが生じているところがあります。
さて、大正7年の鉄道院のものは勉強不足で存じませんでした。
少なくともこの大正10年のものを発行するときの定本になったものでしょうね。
とにかく貴重なものには相違ありませんので、大切になさってください。(中島誠之助さん風に)

2012.06.28 Thu 20:35  |  この本買いました。

こちらのブログの写真のお掛けで、箱なしの本を日本の古本屋登録している福岡のD書店から、買うことなくすみました。しばらくして、大阪の方で函付き美本を見つけることができました。表紙のデザインは、雅楽です。
2種類あるようです。御礼もうしあげます。 

  • #BaVqJGy6
  • 伏見
  • URL
  • Edit

2012.06.30 Sat 07:53  |  *伏見さん

伏見さん おはようございます。
コメントありがとうございます。
拙記事がお役に立てたようで何よりでした。この本は吉田初三郎の鳥瞰図も素晴らしいですが、旅行案内本としても秀逸だと感じます。大正時代に戻って、木造客車に揺られて日本国中旅行したいものですね。

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段段車窓が薄暗くなり、汽車が次第に濃ひ夕闇へ走り込んで行く時に聞く汽笛の響きは、鼻へ抜けたかさ掻きのやうな電氣機關車の聲よりも、蒸氣機關車の複音汽笛が旅情に相應しい。


          


  いつの間にか窓が眞暗になり、窓硝子に響く汽笛の音が、蒸氣機關車C62の複音に變つてゐる。


          
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